JOURNAL

粉門屋仔猫 小林千鶴さん【後編】

長野市で「粉門屋仔猫(こなもんやこねこ)」を営む小林千鶴さん。
自家製酵母を使って焼き上げるパンは、ワインや料理があってこそ。
パン職人 兼ソムリエとして、パンのある食卓を提案しています。

粉門屋仔猫 小林千鶴さん【後編】

お酒や料理と合わせたいパン

千鶴さんの焼くフォカッチャといえば。
「菜の花とチェダーチーズ」「長芋とジェノベーゼ」「ブラックペッパーと巨峰」など、季節ごとの食材をのせて焼き上げるフォカッチャは、思わず「ワイン持ってこーい!」と強気なオーダーを叫びたくなるほどのおいしさです。

左が「長芋とジェノベーゼ」、右が「ブラックペッパーと巨峰」のフォカッチャ。ほかにも季節ごとの食材がのる※

千鶴さんのパンを食べるといつもお酒が飲みたくなるのですが、それは千鶴さんが「夕食に合わせてパンを食べてほしい」との思いを込めて、「お酒や料理があってこそのおいしいパン」を焼いているから。だから店内には、ワインやチーズ、生ハムなどディナーを彩るお酒や食材が並び、外国産の調味料もそろいます。

店頭に並ぶ調味料はパンにも使う。左から、イギリス産の結晶塩「マルドン シーソルトフレーク」、フランス産の天日塩「ゲランド フルール・ド・セル」、イタリア産オリーブオイル「サルバーニョ エキストラヴァージン」※

なかでも長野県産ワインの充実ぶりには目を見張るものがあります。粉門屋仔猫は埴科郡坂城町にワイナリーをかまえる「Vino della Gatta SAKAKI(ヴィーノ・デッラ・ガッタ・サカキ)」の系列店であり、ワイナリー直売店でもあるのですが、自社のワインだけでなく、県内のさまざまなワイナリーの銘柄が並びます。

カウンターの一角を長野県産ワインが占めている。入手困難な人気ワイナリーの銘柄も並ぶ

千鶴さんはソムリエの資格を持ち、さらには野菜ソムリエとパンシェルジュ1級、調理師の資格も持ち合わせています。だからこそパンを焼くだけでなく「パンのある食卓を提案したい」と考え、日々発信するお店のSNSでは、パンに合わせたいワインや料理も紹介しています。

「BRENC」ニーダーのレシピブックでは千鶴さん監修の天然酵母パンのレシピを掲載。
アレンジレシピのひとつ、「りんごのソテー」をフランスパンにのせ、赤ワインを添えた一品

粉門屋仔猫はもともと、2013(平成25)年に善光寺近くにあるシェアオフィスの一角で開店しました。蔵を改装した建物にカフェを出店するにあたり、オーナーが千鶴さんに白羽の矢を立てたのです。
千鶴さんはアパレルショップの店員や経理の仕事をしながらパンを作りはじめ、友人に教えるうちにパン教室を主宰するようになっていました。

「もともとお店はやってみたかったし、そろそろ飲食店で修業させてもらおうかと思っていたところでした。話を聞いたときは未経験で大丈夫なのか、不安の方が強かったです」
しかし、その思いもひと晩で吹っ切れ、店を引き受けることを決意していました。

東町にあった頃の店先にて。遊びに来る近所の猫が、まるで看板猫だった※

2018(平成30)年に駅前へ移転し、同時に夫が2階のレストランのシェフに就任しました。
「夫婦で同じ建物で働くなんて、最初は考えられなかった」という千鶴さんですが、ワインとのペアリングや食材とのマリアージュなど、パンのある食卓の提案は魅力を増しています。

さて、ツイッターやインスタグラムに目を向けると。
「カンパーニュが焼き上がった」「ボスケソチーズラボのチーズが入荷した」「メゾン・デュ・ジャンボン・ド・ヒメキのスモーキーリエットのサンドイッチを準備中」「シェフの気まぐれスイーツが出るよ!」
そんな胸おどる投稿に、居ても立っても居られない気持ちになります。今日もがんばって働いて、夕方になったら粉門屋仔猫でパンとワインを買おう。そんな活力をもらえるのです。

取材・文/塚田結子 写真・宮崎純一 (※は千鶴さん提供)


こばやし・ちづる

長野県飯山市生まれ。
アパレルショップの店員や経理の仕事をしながらパン作りをはじめ、自家製酵母から仕込むようになる。パン教室を主宰するかたわら、長野市東町「粉門屋仔猫」の店長に抜擢され、2013年10月に開店。パンの販売とともにランチ&カフェ営業を行う。2018年に長野駅前へ移転し、2階がフレンチレストラン、1階がテイクアウト専門のパン店となった。

粉門屋仔猫
住所|長野市南石堂町1279-6
営業時間|11時~17時
定休日|日・月曜定休、不定休あり
Facebook、インスタグラム、Twitterあり