長野駅の西口を背にして善光寺表参道こと中央通りへ歩いて3分ほど。末広町の交差点そばに立つ白い建物は、5月になれば壁一面が黄色いモッコウバラで覆われます。この建物の1階に、小林千鶴さんが店主を務める「粉門屋仔猫」があります。2階は夫の弘幸さんがシェフを務めるフレンチレストラン「ラ・ガッタ」です。
夕食に合わせて焼き上げる天然酵母パン
「パン屋と豆腐屋は朝が早い」という思い込みをもって開店11時に合わせて店に飛び込んでも、「ぼちぼち焼きはじめてます」程度の品ぞろえ。その後30分ごとに焼きたてが並び出し、お昼をまわってパンの種類が充実し、15時を過ぎていよいよハード系のパンが焼きあがってきます。
千鶴さんいわく「うちのパンが一番おいしく食べられるタイミングが、焼きたてのパンが冷めてから3〜6時間以内くらい」。そのタイミングが夕食時になるように、逆算して昼過ぎから焼いているのです。
「基本的に私ひとりでパンを焼いているので、たくさんのパンを一気に並べることはできないんです」と千鶴さん。しかも自家培養した天然酵母を使うので、1日に焼けるパンの量はもともと限られます。
「天然酵母と聞くと酸っぱいパンをイメージされる方が多いですが、私は酸味を出さずに発酵させます。酵母を起こして使えるようになるまで10日ほど。手間はかかりますが、噛めば噛むほど味わいの広がるパンが焼けます」
また、イーストフード、マーガリン、保存料は使わず、そのレシピはとてもシンプルです。
おいしさを極めたフォカッチャ
そういえば、店には食パンがありません。
「そうなんですよ、はじめて来たお客さまには必ず聞かれるんですが、設備が合わず、うちでは食パンが焼けないんです」
オーブンの風が強すぎるのか、山型食パンはいびつにふくらんでしまい、どうやってもきれいな食パンが焼けないのだとか。ならば「うちはうちで、できることを考えました」。
「イベントに出店する際のサンドイッチを作るために焼いたフォカッチャが好評で、大きいまま売ることにしました」
もともとフォカッチャは、イタリア生まれの「平たく焼いたパン」のこと。千鶴さんは冷めてもおいしいフォカッチャを追求してドーム型に焼くようになりました。その食感は、もちもちしっとりで、本当においしいのです。
それをさらに横にのばした(アーケード型とでも呼びましょうか)フォカッチャは大きく焼くので水分が保持されて、さらにしっとり焼き上がり、やわらかさが長続きします。
(後編へつづく)
取材・文/塚田結子 写真・宮崎純一 (※は千鶴さん提供)
こばやし・ちづる
長野県飯山市生まれ。
アパレルショップの店員や経理の仕事をしながらパン作りをはじめ、自家製酵母から仕込むようになる。パン教室を主宰するかたわら、長野市東町「粉門屋仔猫」の店長に抜擢され、2013年10月に開店。パンの販売とともにランチ&カフェ営業を行う。2018年に長野駅前へ移転し、2階がフレンチレストラン、1階がテイクアウト専門のパン店となった。
粉門屋仔猫
住所|長野市南石堂町1279-6
営業時間|11時~17時
定休日|日・月曜定休、不定休あり
Facebook、インスタグラム、Twitterあり