イギリス家庭の日常を伝える教室
「イギリスの暮らしの教室」のコンセプトは「丁寧な暮らしを紡ぐ英国カントリーサイドの家庭の日常」です。これまでのスケジュールを紐解くと──2月恒例の「パンケーキデーの会」、農夫のお昼ごはんをテーマにした「プラウマンズランチ」、ケルト文化や節目の行事を紹介する「乙女座満月のワークショップ」などなど。
スコーンやキャロットケーキ、ズッキーニとライムのケーキなど、イギリスならではのお菓子を作る会、「ホットクロスバンズ」というイースターに食べるパンを焼く会もあります。ちなみにこのパンについては「表面に、キリスト教にちなんで十字に生地を絞り、悪を封じてふくれあがらせないようにするんです」とのこと。
原さんが心を寄せるのは、イギリスのカントリーサイドに住む人が営む、あたりまえの暮らしです。古き良きものを大事にして、季節を楽しみ、行事をむかえる準備をして、手作りのお菓子を作る。そこには紅茶が欠かせません。
イギリスに滞在して感じる心地良さや安心感を、季節のイベントや、その際に楽しむ食や風習などとともに伝えたい──そう原さんは考え、だから紅茶教室ではなく、あえて「イギリスの暮らしの教室」と謳っているのです。
紅茶はゆったりとした時間とともにある
「紅茶講習」は、入門編のベーシックコースと探求編のアドバンスコースがあり、紅茶の淹れ方の基本からはじまり、段階を踏んでより専門的に学んでいくことができます。取材の際も話をうかがいながら、おのずと豊かで奥深い紅茶の世界に引き込まれました。
この日、原さんが淹れてくださったのは、スリランカのルフナという紅茶です。「香りを嗅ぎ、口にすると、どこのお茶か、だいたい想像がつきます。このルフナは野生的で土っぽい感じで、低地で生産されているなとわかります。産地紅茶は育つ場所を想像して、旅しているような気持ちになります」
まるでワインのようだと伝えると「そのとおり」と原さん。「紅茶の渋みはワインと同じタンニンですから、お肉や味の濃い料理によく合って、運転する方やお酒の飲めない方には紅茶で代えることができます。だから紅茶もワインと同じようにペアリングが楽しめるんです」
アドバンスコースではスイーツだけでなく、チーズや食事とのペアリングも学ぶことができます。
産地の気候や地理を思い浮かべたり、歴史をさかのぼって植民地時代に思いを馳せたり、緑茶や中国茶など各国のお茶文化に話が及んだり。紅茶を飲みながら、原さんの言うとおり、時間も空間も超えた旅をしているような心地になりました。
製法や発酵について、茶葉と水質の関係、健康効果など、紅茶にまつわる話題は多岐に渡り、尽きることがありません。
「紅茶はもともと漢方と同じように効能が期待されて東洋から西洋に渡りました。香りや味わいの成分だけでなく、栄養分も含んでいます。そもそも紅茶は発酵しているので、コーヒーや緑茶とちがって身体を温める効果があります。代謝は上がりますよ」
「私自身、どんなに忙しい時も10分でいいからティーブレイクを取ることを心がけています。お茶の時間を取ると、その後の作業効率が良くなります。そして自分のための時間を持つことで、忙しさに流されず、満足感を得られる。そんなことも教室ではお伝えしています」
紅茶とは、心と身体に作用するもの。お湯を沸かしてポットに注ぐと、立ちのぼる音と香りとともに、ゆったりした時間が訪れます。紅茶に親しむことは──心地よく健やかな暮らしを楽しむことなのです。
取材・文/塚田結子(編集室いとぐち) 写真/宮崎純一
はら・ゆみ
長野県長野市生まれ。2002年、紅茶について学ぶため渡英して4人に師事。その後もイギリスでの研修を重ね、2007年から「Cosy&Rosy」を掲げて自身の教室を主宰。2015年に紅茶調合室を開設。
紅茶とイギリスの暮らしの教室 Cosy&Rosy(コージー・アンド・ロージー)
住所|長野市神楽橋 51-15
営業日時|木曜10時~16時
公式サイト|https://cosyandrosy.com/
Instagram|cosy.and.rosy