JOURNAL

紅茶とイギリスの暮らしの教室 Cosy & Rosy 原夕美さん【前編】

長野市で「Cosy & Rosy」の屋号を掲げて紅茶調合室をかまえ
「紅茶講習」と「イギリスの暮らしの教室」を営む原夕美さん。
紅茶に親しみ、イギリスでの暮らしの魅力を伝える人は
ご自身も明るく温かな、Cosy& Rosy を体現するような人でした。
紅茶とイギリスの暮らしの教室 Cosy & Rosy 原夕美さん【前編】

長野市の北部、神楽橋(かぐらばし)という地区に緑ヶ丘公園があります。一見すると丘陵地に広がる天然の林のような自然豊かな公園に面して、原夕美さんの営む「Cosy&Rosy(コージー・アンド・ロージー)」があります。

取材に訪れたのは冬。立ち枯れた景色も風情がありますが、緑萌える季節になると「お店にいながらにして、まるで森の中にいるような気分を味わえます」と原さんは言います。


ティーポットを模したかわいい看板。公園を借景にした立地

注文式のビスポークティー

毎週木曜 10 時に小さなお店が開店します。ここは喫茶店ではなく、雑貨店でもなく、紅茶調合室です。紅茶を産地別に、あるいは好みに合わせて仕立て、計り売りしてくれます。

原さんに、週末の朝に家族と飲む紅茶を相談してみました。平日は和食だけど、週末の朝だけはパンを食べること。普段はティーバッグで済ませてしまうけど、週末くらいはゆっくりポットで淹れたいこと。子どもも一緒に飲むので、ミルクティーにしてもおいしいこと。

希望を伝えながら、いろいろ話をして、提案してもらったのは「アッサムCTC」。アッサムは、ご存じのとおりインドの産地名。CTC は「Crush,Tea,Curl」の略称で、茶葉を丸い粒状にする製法のこと。より早く抽出できるように工夫してあります。


こぢんまりと居心地の良い店内。窓辺に魔女の飾りが下がる

「教えてもらったとおり、茶葉の量と抽出時間をきちんと計って淹れた紅茶は香り高く、「濃いことと渋いことはちがうんです」という原さんの言葉どおり、しっかり味わい深くとも渋みはない。子どもにも飲みやすく、週末の朝にみんなで紅茶を飲むことが楽しみのひとつになりました。


ティーセラーには紅茶の缶がずらり。ここから好みに合わせた紅茶を計り売りしてくれる

原さんの立つカウンターの後ろにはティーセラーがあり、扉を開けると紅茶缶がずらりと並んでいます。ここは 1 年を通じて適温を保てるように断熱をしっかり施してあります。

たくさんある茶葉から選び、ときに調合してくれるのですが、こうした注文式の紅茶販売のスタイルを「ビスポークティー」と呼んでいます。ビスポークは注文品を意味し、テーラーがお客さんの注文を受けて仕立てるスーツや靴などにも使われることに倣い、原さんが名づけました。

「イギリスは暮らしにファンタジーが溶け込んでいて、ハーブを扱う人を魔女と呼ぶんです。映画『魔女の宅急便』のキキのお母さんみたいなイメージでしょうか」。薬草から薬を調合する魔女のイメージを原さんに重ね、確かにここはテーラーというより、片田舎の小さな薬局のようだと思うのでした。

イギリスの暮らしに魅せられて

原さんがイギリスとの縁を紡ぐきっかけは進学のため上京する時。英語英米文学を専攻する原さんに、親友がティーカップを贈ってくれたのです。紅茶に興味をもってデパ地下に足を運ぶと、本場イギリスのいろんなメーカーの紅茶が並んでいました。

「私は生粋の長野県人で、しかもおじいちゃん・おばあちゃん子だったので、お茶といえば緑茶ばかり飲んでいました。それまで紅茶は黄色い袋のティーバックしか知りませんでした」

そんな原さんは結婚退職後、はじめての紅茶留学を果たしました。とはいえ、紅茶やお菓子について体系的に学べる専門校があるわけではなく、個人的に専門家に就いて学ぶため、分野の異なる4人のもとを渡り歩いたのです。


原さんに産地の話を聞きながら紅茶を飲むと、その地の情景が浮かんでくる

紅茶の博物館を運営していた権威ある先生のもとでは紅茶のテイスティングを、イギリス南部の師匠のもとではイギリス菓子を学びます。コッツウォルズでは古き良きものを大切にする暮らしや料理を学び、ヨークシャーの家ではハーブを多用する料理や、イギリスらしい丁寧な暮らしを学びました。


取材の際に淹れてくださったのはスリランカのルフナ。野生的で土っぽい香り、奥深いコクとキレの良い渋み。黒蜜のような甘みが口に残る。チーズや食事にも合いそう

ヨークシャーの家は原さんにとって第二のわが家のような存在となり、その後も毎年イギリスに渡っては、ここを拠点にイギリス各地での学びを重ねています。こうした経験を生かして原さんが開いたのが「イギリスの暮らしの教室」と「紅茶講習」です。

(後編へつづく)

取材・文/塚田結子(編集室いとぐち) 
写真/宮崎純一


はら・ゆみ

長野県長野市生まれ。2002年、紅茶について学ぶため渡英して4人に師事。その後もイギリスでの研修を重ね、2007年から「Cosy&Rosy」を掲げて自身の教室を主宰。2015年に紅茶調合室を開設。

紅茶とイギリスの暮らしの教室 Cosy&Rosy(コージー・アンド・ロージー)
住所|長野市神楽橋 51-15
営業日時|木曜10時~16時
公式サイト|https://cosyandrosy.com/
Instagram|cosy.and.rosy