JOURNAL

ヤマとカワ珈琲店 川下 康太さん【後編】

長野市の善光寺門前で「ヤマとカワ珈琲店」を営む川下康太さん。
会社員からコーヒー店の店主へ、喫茶から自家焙煎へ。
暮らしに合わせて働き方を変え、生き方をシフトし続けています。
ヤマとカワ珈琲店 川下 康太さん【後編】

入り口が豆の販売カウンター。
ギフトセットやドリップパックなども取りそろえる

焙煎

ヤマとカワのコーヒーは、ブラジルやタンザニアなどの単一品種と、オンラインストア限定のECブレンド、季節ごとの「シーズンブレンド」があります。焙煎度は、浅めで酸味の強いライトローストから、深煎りで苦味の強いイタリアンローストまで8通りあり、豆に合わせて焙煎しています。

「朝は6時に店へ来て、まず釜に火を入れます。焙煎機は鉄の塊なので予熱に時間がかかるので、その間にここで朝ごはんを食べて、7時半から焙煎スタート。1回の焙煎がおよそ16分から18分かかります。それを午前中は4、5回くり返します」


焙煎の前後で豆を選別する。焙煎前は黒ずんだ豆を除き、焙煎後は粒をそろえる

「焙煎の前半では釜をしっかり蓄熱させて、火力は弱火にします。豆の芯まで火が入り、成分の化学変化が活性化される。コーヒーの甘みやコクは、ここで生成されます。後半で排気して水分を抜くのですが、やりすぎると水分とともに甘みとコクも飛んで、スカスカの味になってしまう。逆に水分が残りすぎると変な味になる。理想の味に仕上げるため、20分弱の間に、じつはいろんなことをやっているんです」


火力と排気のバランスを取りながら、釜の中と焙煎機そのものの温度を調節していく

コーヒー豆の状態も、気温も湿度も都度変わります。焙煎は同じことのくり返しようでいて、同じではあり得ないのです。そのなかで最善を尽くし、「僕がいいなと思う味を気に入ってくれた人が、お客さんとしてまた来てくださる」。とはいえコーヒーは嗜好品だから、好みは分かれて当然だと川下さんは言います。

 たとえ理想どおりに豆が焙煎できたとしても、味の最後はコーヒーを淹れる人に委ねられます。しかし、それでいいのだと川下さんは言います。「淹れ方講座をやってみたり、日々のコミュニケーションも含め、コーヒーのある暮らしをサポートできるのも、コーヒー店の魅力です」

 


開店時から焙煎について記録している。迷った時には前年の同じ時期の内容を読み返す

長野と木曽の2拠点、新たなステージへ

2022年春、子どもの小学校進学を機に、川下さんは家族そろって木曽の開田高原に居を移しました。長野市の店での店頭販売と発送はスタッフに任せ、川下さんは木曽と長野を行き来しながら、変わらず焙煎を行っています(取材の時点では「焙煎機を移すかどうかは調整中」とのこと)。

「現在、直販と通販のお客さんの割合は半々。通販はポストインで全国どこへでもお届けしますが、通販もじつは長野市がメインです。一度来店された方が頼んでくださっている。今のところ木曽でお店をやるつもりはないんですが、木曽に行けば新たな人とのつながりが生まれて、木曽のお客さまが増えるかなと期待しています」

「好きな場所で仕事ができることを、うらやましがられることもあります。確かに、今の自分でないと絶対できないこと。会社員時代は仕事に暮らしを合わせていたけど、今はやりたい暮らしとか、子育てに合わせて仕事のやり方を変えればいいですから」

焙煎機さえあれば、どこでも仕事ができますね、と言葉をかけると、意外な答えが返って来ました。「いずれ焙煎も誰かに任せていいかなと思っているんです。引っ越し先は、いわゆる限界集落。今は地域のことをやりたくなる予感がしているんです」

 

会社員からコーヒー店の店主となり、喫茶の営業から豆の販売に業態を変え、場所も時間も自分次第となった今。それすら軽々と超えて、川下さんは心に描く思いを、また肩肘張らずに実現させていくのでしょう。

取材・文/塚田結子 写真・宮崎純一 


かわした・こうた

1983年、大阪府生まれ。大学卒業後、建築資材メーカーで7年間勤め、2013年に長野市へ移住。翌年、ヤマとカワ珈琲店を開業。2022年から木曽郡木曽町に移住して、長野と木曽の2拠点で活動していく。

ヤマとカワ珈琲店
住所|長野市鶴賀田町2252
営業時間|13時~16
定休日|日〜水曜
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